> インタビュー > 琉球大学教育学部 講師:森山 克子さん
縄が誇る素晴らしい伝統的な郷土料理には手間を惜しまず,時間をかけて煮込む豚肉料理等があります。母からその子へと、代々大切に守り伝えたその家ならではの味も、近年その継承が途絶えようとしています。
古来、沖縄ではシーミーと呼ばれる清明祭や旧暦で行われるお盆、お正月など、昔ながらの親族が集まる行事や祭事の際には伝統的な行事食が提供されてきました。しかし現在ではこのような行事食や手間をかけて日々の料理を作る人が少なくなったことや手軽にスーパーなどで購入できることから、かつては「○○さんの家の煮付けがおいしい」と伝わった噂も、今では「○○スーパーの煮付けがおいしい」といった内容に変わっているように思います。
こうした現状をふまえ、沖縄の未来を担う子どもたちに沖縄の郷土料理の味を忘れないでほしい、そしてぜひ家庭でも手軽に味わっていただきたいと願い、学校給食に食育を取り入れることを提唱し、その普及に努めてまいりました。
たとえば、私が教鞭をとっている琉球大学教育学部が立ち上げた「おきなわ子ども教育フォーラム」の企画として制作した「伝えたい!学校給食から郷土料理~元気っ子のリメイク朝ごはん」というパンフレットでは、昆布と豚三枚肉を煎り煮にした「クーブイリチー」、田芋と豚三枚肉を混ぜ込んだ「冬至(トゥンジー)ジューシー」、ゴーヤーと豚三枚肉と島豆腐で作る「ゴーヤーチャンプルー」、野菜パパイアと豚三枚肉を炒め合わせた「パパヤ―イリチー」を紹介しています。それぞれの郷土料理の伝統的なレシピだけではなく、学校給食として子どもたちが食べているレシピ、さらには手軽でまったく新しいメニューにアレンジするリメイクレシピも紹介し、夕食で残った伝統料理を翌日の朝食に使い回すアイデアを提案しました。いずれの郷土料理にも豚肉が使われているのが特長で、学校給食でも豚肉を使ったメニューは栄養価も高く子どもたちに人気です。豚肉には、亜熱帯地方に必要なビタミンB1が豊富に含まれています。
また、「海を渡った郷土料理」というテーマで、移民としてハワイへ渡ったウチナーンチュの二世、三世の食生活における郷土食の伝承についても研究中です。今年は、ハワイで聞き取り調査を行いました。すると、豚肉が多めの「クーブイリチー」、魚ではなく豚肉を使った「昆布巻き」、豚肉をふんだんに使った「煮しめ」といった形で郷土料理が今なお伝承されており、沖縄での「足ティビチ」は「ポークフットスープ」として定着していまいた。特に、参加者が一品ずつ料理を持ち寄るポットラックパーティーや、デリバリーもある街中の気軽な食堂でも、豚肉を使った沖縄の郷土料理が提供されていました。豚肉という食材があったからこそ、沖縄の味がハワイで生き残ることができたのだと思います。
写真はイメージです。
ある移民家族の一世は故郷を懐かしみながら郷土料理を味わったそうですが、二世になるとアメリカ社会になじむために敢えて食べない方が多く、三世になると逆に自分のルーツを知りたいという思いから郷土料理に対する関心が高いようで、
「料理名だけは知っているけれど、食べたことがない」
という話もよく耳にしました。
私が現地で出会った二世の91歳になる女性は、宝物のようにしていた古い沖縄料理のレシピブックを娘さんに受け継いでもらったと語っていました。
私たちの命は、縦と横のつながりの中で生かされています。ハワイでの郷土料理の伝承も、そこにあるのは「縦のつながり」です。祖母から母へと伝えられてきた味を、受け継ぐことが「縦のつながり」です。 「横のつながり」は、学校給食においては、豚を育てる人、それを肉に加工する人、流通に携わる人、調理する人がいて、ようやく自分の口に入るという食育をしています。 命の縦と横のつながりを知ることは、食の大切さ、自分の命の大切さを実感することができると思うのです。人は自ら食べるものでできています。だから食は大切なのです。その根底にある命の縦と横のつながりを通して、子供たち自身の命の大切さをこれからも私は伝えてゆきたいと考えます。
琉球大学教育学部講師。
沖縄県内の幼稚園、小学校、中学校、高等学校での教職員、国立沖縄青年の家事業課栄養士、沖縄県教育庁保健体育課主任技師(学校給食並びに食育担当)を経て、平成18年より現職。
学校現場と行政での経験を踏まえて、国や県のあるべきビジョンを具現化する実践活動に取り組む。子どもの食育指導の第一人者、スーパーアドバイザーとして学校や市民向け講座での指導等、幅広い教育活動を展開中。