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生産者(カラヤー)の声

09 伊波農場:伊波邦夫さん

引退したいと思いつつ、できない理由とは

牛達 沖縄本島きってのリゾートホテルが立ち並ぶ恩納村の西海岸。そこから山に向かって車を走らせ、人家が途絶えた頃、高台の奥に建つ伊波農場の牛舎が見えてきます。この10月に開催された第39回沖縄県畜産共進会枝肉部門に、894kg、A5クラス、B.M.S.12という、超大型かつ最高級の品質を持つ牛を出品し、並みいる強豪30頭の中から栄えある優秀1席を獲得しました。
「もう85歳だから、そろそろ引退したいんだけど、次から次にいい牛が育つもんだから、なかなか引退できないわけさー」と笑う伊波邦夫さんは、たった一人で25頭の牛を肥育。驚くべきはその実績で、昨年度は出荷した20頭中、最上級のA5クラスが14頭、残り6頭もA4クラスだったといいます。その秘訣のひとつが、まずは血統。

「今回、最優秀をもらった牛は、体格は小さめだけど最高のサシ(霜降り)になる『北福波』の子で、大きく育つ鹿児島の名牛『勝忠平』と『金幸』の血も引いているから、両方の長所が出て、素晴らしい肉質の大きな牛に育ったんだね」。
  伊波さんは主に今帰仁家畜市場で素牛と呼ばれる子牛を購入しているそうですが、セリの際、伊波さんの周囲には、松阪牛のお膝元である三重県や米沢牛で知られる山形県からの畜産業者が席を連ね、最上級の肉質を生み出す伊波さんが買う素牛を注視しているのだそうです。以前、この『生産者の声』にご登場いただいた山城畜産の山城善市さんも、家畜市場で伊波さんと素牛を競り合う仲。すぐれた肉質になりそうな血統の子牛を見極め、手塩にかけて大切に育てる。それが、トップクラスの畜産農家さんに共通する姿勢なのでしょう。

牛のおやつ(イメージ) 「この牛も優勝した牛と同じ血筋なんだけど、そんなに大きくないでしょう?遺伝って不思議だね」と教えてくれた伊波さん。確かに、伊波さんが差し示した牛は、周囲の牛に比べて、特に大きいわけでもありません。確かに、同じ親から生まれた人間の兄弟でも、体格も体質も似ていないことは多々あります。そこで、血統と並んで重要なのが飼料。
「牛もおやつが大好き」と笑顔で語る伊波さん。見れば飼料タンクにも『おやつ』の文字が。さっそく牛のおやつについて伺ってみました。

飼料に独自の工夫を重ねて肉質を向上

いは農場(イメージ)「最初に決まった量の配合飼料を、その後に干し草を、最後はこのトウモロコシをおやつにあげるわけよ」。どんなに満腹でも、食後のデザートはすんなりとお腹に収まってしまうのは、人間も牛も同じこと。給餌は朝夕の1日2回。配合飼料には13カ月までの前期用と、14カ月以降の後期用があり、このトウモロコシの他、大麦、大豆粕、ビール粕なども加えているそうです。
「生後8カ月の素牛を買ってきて、18カ月かけて肥育する間に、牧草の種類も変える。10カ月頃までは、しっかりした体を作り上げるために、イタリアンライグラスという牧草をやる。体格ができ上がったら、後半は肉に脂をのせる時期。12カ月から14カ月にかけて、少しずつ慣らしながらオーツヘイという種類に切り替えて、仕上げの1カ月は麦わらをやる。そうするといい肉質に仕上がる」。牛舎を案内してもらう間、牛たちは柵のすき間から顔を出し、通りかかる伊波さんに甘えるようにすり寄ってきます。それは、伊波さんが日頃から愛情を注いでいる証し。


「40年間ずっと牛を育ててきて、苦労した時期もあったよ。最初の頃は、いい肉が作れなくて、エサ代にさえならなかった」。品質のすぐれた肉が作れなければ、外国産の肉との価格競争になり、飼料代はおろか、素牛の価格程度にしかならないこともあったといいます。その理由がなぜなのかすら分からなかった昭和50年頃、伊波さんは東京食肉センターに連れて行ってもらい、上質な肉が流通する現場を垣間見る機会を得て、いい肉は飼料が決め手だと知り、そこから奮闘が始まりました。以来、積極的に肥育の知識を学び、独自の工夫を重ね、平成10年の沖縄県畜産共進会で念願の最優秀を獲得。その後も県内のトップレベルの生産者と切磋琢磨し、常に上位を占め続けてきたのです。
「うちは後継ぎがいないから、いい牛の育て方を誰にでも教えてあげる。県内はもちろん県外からも見学に来る人が多いよ」。ここの牛の飲み水は、豊かな森を抱いた山から流れる天然水。その川の水のように、あふれるほど豊かな畜産の経験と知識を、伊波さんは惜しみなく次世代に伝えたいと願っています。

いは農場の様子

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