> 生産者(カラヤー)の声 > 農業生産法人(株) もとぶ牧場:坂口 泰司さん
美ら海水族館へと続く海沿いの道から、日本一早咲きの桜で名高い八重岳を目指し、ドライブすることしばし。やがて、もとぶ牧場のエントランスが見えてきます。やんばるの緑豊かな自然の中に広がる約14ヘクタールの敷地内には14棟もの牛舎が並び、約2300頭の黒毛和牛が育てられています。
「一番の特長は、人と自然にやさしい循環型農業ですね」と教えてくださったのは、もとぶ牧場の代表取締役社長、坂口泰司さん。1988年の牧場設立以来、環境に配慮した畜産に取り組み、もとぶ牧場ならではの循環型システムを構築したのだそうです。
「それまで活用されていなかった地元オリオンビールのビール粕を利用して独自の発酵飼料を開発し、すぐれた肉質を生み出すのと同時に、牛からの二酸化炭素の排出を抑えることにも成功しました。
また、牛の排泄物にはおがくずを混ぜて発酵させ、無臭化した良質な完熟堆肥にリサイクルし、県内の農家さんをはじめ、地元の小中学校の花壇などでも使っていただいています」。坂口さんによると、もとぶ牛の品質の決め手になるのは、血統、飼料、管理が各3割、残る1割は生産者の気合いとのこと。さっそく牛舎を見学させていただきました。
案内してくださったのは肥育担当の古堅宗和さん。
「14棟のうち1棟は100頭の母牛を飼育できる規模の繁殖専用の牛舎。残りは肥育牛舎で、現在は雄が約6割、雌が約4割といった感じですね」。ゆき届いた環境管理と、本部の海から山へと吹き抜ける風のせいか、見渡す限りの牛舎ながら、特有の匂いはあまり感じません。
「繁殖用の母牛は、太ると妊娠しにくくなるため、妊娠前は配合飼料と牧草を与え、産後はしっかりと栄養を摂らせます。肥育牛の場合は、成長期にあたる16カ月頃までは、頑健な身体を作るため、高たんぱく・低カロリーの配合飼料を与え、脂をのせる時期に当たる16カ月から21カ月の頃に、低たんぱく・高カロリーの発酵飼料へと移行していきます」。毎日、すべての牛の健康状態をチェックし、食べ残しがあったり、本来なら人なつっこいはずの牛が飼育担当に近寄って来なかったりなど、少しでも気になる点を発見したらすぐに対応し、牛の健康を守っているのだそうです。
「ちょうど今日は削蹄師(さくていし)の方が来ていますよ」と聞き、見に行きました。牛舎では1区画の牛房に5、6頭の牛がいるため、ときには小競り合いになることあるので、牛同士が傷つけ合うのを防ぐ目的から、12カ月までには角を切り、17カ月で蹄を削るのだとか。
牛房から出され、鉄製の枠に固定された牛は、ちょっと不安そうな様子でしたが、牛の名産地である伊江島から出張してきた削蹄師の島袋秀和さんの手にかかると、暴れることもなく、専用のカマや鉈(なた)で大人しく蹄を削られていました。
「同じ牛房の中でも、弱い牛の角はそのまま残し、強い牛だけ除角してやると、群れの中でも安心して過ごせるみたいです」と古堅さん。まるで人間社会を思わせるようなエピソードでした。
さて、もとぶ牧場には、地元の本部町と那覇に直営レストランがあります。そこで、テーブルに運ばれてきた肉を見てみると、エアコンの効いた涼しい室内にもかかわらず、次第に脂肪が融けだし、ツヤを帯びてくるのが分かります。
なぜ、こんなに脂肪の融点が低いのでしょうか。
実は、黒毛和牛の脂肪を調べると、個体差はありますが、輸入牛やホルスタインなどの乳牛種と比べた場合、飽和脂肪酸よりもオレイン酸やリノール酸など不飽和脂肪酸の割合が高く、このことが肉の美味しさにも大きな影響を与えているのだそうです。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸よりも融点つまり脂肪が溶けだす温度が低いため、口の中で脂肪がなめらかに融けて、まろやかで深いコクを生み出すのでしょう。
とりわけ、もとぶ牛の不飽和脂肪酸は、一般的な黒毛和牛の平均値より高いのが特長です。
2006年の第32回沖縄県畜産共進会で最優秀賞を受賞。翌年には同賞を2連覇したうえ、第9回全国和牛能力共進会で沖縄初のベスト10に入り、優等賞8席を受賞。2008年には全国霜降牛研究会で優秀賞を受賞。
その後も、全沖畜連肉用牛枝肉共進会などの大会で数々の受賞歴を重ねていますが、これこそが、もとぶ牛の品質を物語る、なによりの証しでしょう。B.M.S.(牛脂肪交雑基準)11、12 という最高レベルの霜降牛も年1、2 頭は誕生しているそうです。「もとぶ牛の9割以上は沖縄県外へ出荷していますが、沖縄県内ではイオン琉球で精肉を取り扱っています。
直営店は本部町と那覇の久茂地にあり、A3からA5クラスの肉をご提供しています」と坂口さん。
ぜひ一度、そのとろける味わいを体感してみてはいかが。