> 生産者(カラヤー)の声 > つかさ牧場:多宇 司さん・明子さんご夫妻
さんさんと降り注ぐ亜熱帯の太陽の下、エメラルドにきらめくサンゴ礁の海を見渡す丘に広がる、緑豊かな牧草地。ここは、多宇司さん・明子さんご夫妻が石垣牛を育てている「つかさ牧場」。農林水産省と日本農林漁業振興会が主催する2008年度(第47回)農林水産祭の畜産部門では沖縄県で初めて最高賞の天皇杯を受賞し、同年の全国草地畜産コンクールでも農林水産大臣賞を受賞した、注目の牧場です。さっそく多宇さんにお話を伺ってみました。
「現在、黒毛和牛の母牛が約120頭、子牛は約90頭、石垣牛として肥育中のものが約40頭います」。真冬でも気温が10度を下回ることがない温暖な八重山地方。18ヘクタールもの放牧地では年間を通じ、南の島の太陽と潮風に育まれた牧草が茂り、放牧された母牛は、好きなだけ新鮮な牧草を食べ、自由に放牧地を歩き回り、のびのびと暮らしています。そんな母牛から生まれる子牛は健康そのもの。セリに出される生後7~10カ月頃まで、この牧場で大切に育てられます。そして、その子牛の中から選ばれたごく一部の牛だけを手元に残し、手塩にかけて石垣牛に育て上げるのだそうです。
「今から子牛の鼻紋を採取して、個体識別票を付けるところです。生後2カ月までに必ず行うんですよ」と、多宇さんたちが慣れた手つきで子牛の頭を固定し、鼻にインクを塗って鼻紋を採り、10桁の数字が記載された個体識別票の黄色いタグを耳に取り付けました。人間の指紋と同様、牛の鼻紋も1頭1頭すべて違うのだとか。そこで、人の戸籍のように、生まれた和牛はすべて、鼻紋とともに親の血統や牧場などの情報を全国和牛登録協会へ登記するのだそうです。また、将来、食肉となった後も、(独)家畜改良センター 個体識別部のホームページなどで個体識別番号を検索すれば、性別、生年月日、生産者、加工場などの情報が分かります。
「すぐれた肉質の石垣牛になるかどうかは、遺伝が4割、育て方が6割といわれていますね」と多宇さん。牛に携わって、かれこれ30年。現在、ここで育てているのは、子牛はもちろん、母牛もすべて多宇さんの牧場で生まれた牛ばかり。人工授精師の資格を持つ多宇さんが自ら交配を手がけ、その出産にも立ち会い、衛生的な環境を保つため小まめに牛舎を清掃し、JA石垣牛肥育部会のメンバーが知恵を絞って開発した統一規格の餌を月単位で配合を変えながら与え、丹精こめて育てた石垣牛。その牛がどんな肉質に仕上がったのか、生産者として最後まで見届けたいという気持ちもあって、ときには石垣牛取扱店へ足を運び、自分が育てた牛の肉を購入し、家族で味わうこともあるといいます。
「この石垣島の豊かな自然の中で、ストレスがかからないように育てているからこそ、美味しい肉質になるのでしょうね」とおっしゃる多宇さん。奥様と二人三脚で営む牧場には、心地よい南風が吹き抜けていました。